パッケージデザインは見た目だけでなく「誰に向けるか」が重要です。本記事ではターゲット設定の意義と具体的手順を事例とともに解説します。
パッケージデザインは商品を見た瞬間、手に取った瞬間から消費者との対話を始める重要なコミュニケーション手段です。
誰に向けてパッケージを設計するかが明確であれば、色や素材、フォントの質感、形状などの要素が一貫したメッセージ性を持ち、店頭での視認性や手に取った際の印象を効果的に高めることができます。
例えば、若年層向けスナックであれば明るく遊び心のある色彩や流行を意識したグラフィックを採用し、高級紅茶の缶包装であればシックな配色と質感のあるマット仕上げを選ぶことでブランド価値を直感的に伝えられます。
こうして対象とする顧客像を起点にデザイン要素を組み立てることで、企画段階から製造、流通、販促に至る全工程で狙いが共有され、最終的に手に取るユーザーに「これは自分にぴったりの品質だ」と納得感を与えられるのです。
ターゲットを見誤ったパッケージデザインは、商品そのものの魅力を損ないかねません。
例えば、オーガニック素材を売りにしたスキンケア商品でありながら、ポップなキャラクターを全面に押し出したポリエステルのフィルムパッケージを採用すると、本来求められている「自然さ」や「安心感」が伝わらず、消費者は手に取りをためらうでしょう。
パッケージの色調や質感、コピーはターゲット層が抱える価値観やライフスタイルに即していなければならず、ミスマッチがあると棚前での比較検討にすら入ってもらえない可能性があります。
実際に、店舗での購買率調査において、ターゲット層とズレたデザイン仕様を採用した商品の売上が平均の半分以下に落ち込んだ事例も報告されています。このように、狙いと外れたパッケージはブランドイメージを毀損し、ビジネス成果の低下という形で深刻な影響を及ぼします。
パッケージデザインにおけるターゲット設定の第一歩は、自社の商品やブランドが市場でどのような価値を提供し、どのような役割を果たすのかを具体的に言語化することです。
例えば、健康志向のスナック菓子であれば、「忙しいビジネスパーソンに対し、手軽に栄養補給を提供する」というように、明確なシチュエーションと行動喚起を定めます。
この段階でKGIやKPIを設定し、新規顧客の購入率やリピート率といった数値目標を明確にすることで、パッケージに求められる訴求ポイントを後続の分析と紐づけて検証しやすくなるでしょう。
目的を明確化することでプロジェクト関係者全員が共有すべきゴールが明確となり、以降のデザイン開発がぶれることなく進められます。
次に、ターゲットとなる消費者層を年代や性別、職業、居住地域などのデモグラフィック属性で大まかにスクリーニングします。
例えば、都市部在住の20〜30代女性を中心に訴求したいケースでは、彼女たちの生活スタイルや購買行動の傾向をリサーチし、パッケージのサイズ感や手に取りやすい形状、色彩イメージを検討します。
最近では、消費者のプライバシー保護を考慮しつつも、POSデータやECサイトの購買データを活用してより精度の高いセグメンテーションが可能です。この大まかな属性設定を行うことで、後述するサイコグラフィック分析やペルソナ作成のための土台を作れます。
デモグラフィックで絞り込んだ層をもとに、さらに消費者の興味関心・価値観・購買動機・使用シーンなどのサイコグラフィック要素を深く掘り下げます。
例えば、自然由来の成分にこだわる健康志向層であれば、オーガニック感を訴求するためにリサイクル紙や箔押し加工を組み合わせたり、ナチュラルな色合いを採用するといった具体的なデザイン要素を検討します。
ECサイトのレビューやSNS投稿を分析し、ターゲットが求める安心感や高級感の度合い、あるいはギフト利用のニーズなどを把握することで、パッケージの素材選定やコピーライティングに反映させることができます。こうして得られた深層心理をパッケージデザインに落とし込むことで、購買の決め手となるエモーショナルな訴求が可能になります。
パッケージデザインに特化したペルソナ設定は、ターゲット消費者の属性や心理、使用シーンを具体的な人物モデルとして描き出す手法です。これにより、デザインチームやマーケ部門、営業部門など関係者全員が「誰のためのパッケージなのか」を明確に共有しやすくなり、訴求要素やビジュアルテイストをブレずに開発できます。
また、ペルソナをもとに店頭での手に取りシナリオや購買後の使用シナリオを想定したカスタマージャーニーマップを作成すれば、パッケージに必要な情報配置や感情動線を可視化。プロトタイプ制作の際にも具体的な改善ポイントが把握しやすくなります。
パッケージデザイン向けペルソナを作成する際は、まず既存の購買データやレビュー分析結果を整理し、仮説を立てます。その上で、名前・年齢・職業・ライフスタイル・購買動機・購入時の重視ポイント・利用シーン・購買チャネルなどの項目を一枚のシートにまとめます。
具体的には、朝食としての利用か、夜のおつまみ用途か、ギフト需要かといった利用シチュエーションを明示し、その上で購買時に注目するパッケージ要素(素材の安心感、手に取りやすさ、情報の見やすさなど)を詳述します。
こうしたペルソナシートをクラウドツールで共有すれば、制作チーム全員がリアルな消費者像をイメージしながらデザイン開発を進められます。
パッケージデザインにおけるターゲット設定は、商品を正しく市場に届け、ビジネス成果を引き上げるための礎です。目的の明確化に始まり、リサーチ、ペルソナ設計、競合分析を経て、さらにデータドリブンな検証やアクセシビリティを盛り込んだ+αの視点を加えることで、消費者一人ひとりの心に響くパッケージを実現できます。リリース後の評価と改善を継続しながら、ターゲット像を常にアップデートし続けることこそが、長期的なブランド価値と売上最大化への近道となるでしょう。