ブランディング戦略におけるパッケージデザインとは? パッケージデザイン総合解説
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パッケージの紙化が進む理由とは?パッケージデザインする上で知りたいこと

紙パッケージ化の背景と意義とは?

近年、サステナブルな社会の実現に向けた取り組みが世界中で盛り上がる中で、プラスチックは便利な素材である一方、使い捨てが続くと海洋プラスチックごみの増加や化石資源の枯渇といった問題を引き起こしています。特に海洋プラスチックに関しては、微小化したマイクロプラスチックが生態系に入り込み、魚介類や海鳥などに悪影響を及ぼし、いずれは人体にも蓄積するかもしれないといわれています。

そうした問題を受け、多くの国や地域で「SDGs(持続可能な開発目標)」の達成に向けた取り組みが加速しており、2030年までにプラスチック廃棄量を大幅に削減しようという動きが活発化しています。プラスチックストローやレジ袋を有料化・廃止する流れがその一例です。また、大手飲料・食品メーカーはプラスチック容器から紙容器に切り替える動きも進めています。

紙という素材が注目される理由とは?

「紙」という素材が注目される理由として、以下のポイントが挙げられます。

再生可能な資源

紙は木材パルプから作られるため、伐採した後に植林を適切に管理すれば原料が再生産されやすいのが特徴です。化石燃料に依存するプラスチックとは異なり、森林資源を循環的に育成してカーボンニュートラルをめざしやすいとされています。

リサイクルの容易さ

紙は国内でも回収率・再利用率が高く、古紙の回収やリサイクルの仕組みが確立されています。「紙マーク」が容器包装リサイクル法のもとで付されていると分別しやすく、プラスチックよりもリサイクルを行う土壌が整っているのが強みです。

生分解性が高い

適切に処理されれば、微生物などの働きで自然に還る性質があります。もちろん撥水加工などを施すと分解しにくくなる場合もありますが、それでもプラスチックのように長期間自然に残るリスクは小さいといわれています。

企業イメージの向上

SDGsの追い風のなかで「環境に配慮した企業」というアピールは非常に有効です。包装を紙に変えれば、消費者にとっても分かりやすい環境配慮のメッセージとなり、ブランド力を高める効果が期待できます。

印刷・加工の多様性

紙は加工しやすい素材なので、形状を自在に成形できるほか、デザインや印刷も豊富な表現が可能です。透明性はないものの、その分ナチュラルな風合いや高級感を出しやすく、従来のプラスチック包装とは異なる魅力を演出できます。

紙という素材を選ぶ注意点とは?

もっとも、紙を採用することですべてがスムーズに進むわけではありません。紙は湿気や衝撃への弱さがあり、フィルム包装が担っていたバリア(酸素や湿気を通さない)機能や強度、透明性などを実現しにくい面があります。この点に対しては、耐水・耐油コーティングや最小限の樹脂ラミネートで機能を補う方法が技術開発されているところです。

紙単体のリサイクル性の高さが評価される一方、樹脂を貼り合わせすぎるとリサイクルしにくくなるジレンマも。これを解消するために、分離しやすいコーティングや、生分解性フィルム、さらには水性インキや水溶性接着剤の活用など、さまざまな取り組みが進められているのが現状です。

最終的に企業や業界が取り組むべきは、「実用的な機能」と「環境配慮」をどこまで両立できるかという点です。紙化の成果があがれば、企業のイメージアップや社会的評価の向上につながります。海外でも大手企業が炭酸飲料用の紙ボトルや紙ストローなどを続々と開発していることを見ても、まさにこの紙パッケージ化は今後の主流になりうるでしょう。

紙パッケージにはどんな技術が使用されている?

紙パッケージにとって最大の課題のひとつは、酸素や水分をいかに遮断するかというバリア性です。食品は湿気や酸化に弱いものが多く、フィルム包装から紙単層に移行すると、賞味期限や品質保持に支障をきたすリスクがあります。そこで、以下のような技術が開発・導入されています。

ヒートシール剤

紙はフィルムよりも熱圧着した部分の強度が低くなりやすいという課題があります。これを解決するため、熱接着強度を高める特殊ヒートシール剤が活用されています。これにより、米や粉物などのように重量のある商品でも破れにくい紙パッケージにできるようになりました。

バリアコート剤

紙に酸素や湿気を通しにくいコーティングを施すことで、アルミ箔やアルミ蒸着フィルムを使用せずとも高いバリア性能を実現する技術です。蒸着フィルム並みの遮断性をめざすメーカーもあり、お菓子や調味料、インスタント食品など幅広い分野で採用が進んでいます。

OPニス(オーバープリントニス)

印刷面の保護や摩擦・汚れを防ぐ目的で表面に塗布するニスです。摩擦でインクがこすれ落ちるのを防いだり、適度な光沢や滑りを持たせたりといった効果があります。紙への印刷をきれいに見せながら保護もできるので、実用面・意匠面で重要な技術です。

こうした技術により、これまでプラスチックフィルムでなければ難しかった高バリア包装を紙で実現する例が増えてきました。なかにはチャック付きのスタンドパウチを紙ベースで作成し、アルミ蒸着に匹敵する性能をうたう商品も出てきています。

幅広い製品カテゴリーでの紙化事例

食品・菓子

大手製菓メーカーが袋の外装を紙に切り替えたり、調味料メーカーが顆粒だし用の紙パウチを導入するなど、既に身近な商品に紙パッケージが広がっています。紙カップ・紙トレーもテイクアウトやインスタント食品向けに需要が拡大中です。

アパレル・衣料

衣類のハンガーやタグ、包装袋などを紙製に切り替える企業が続々と登場しています。オンラインショッピングの配送袋も紙化を進める事例が増加しており、「脱プラの象徴」としてブランディングにも効果を上げています。

文房具・筆記具

ペンや替芯を収めるブリスター包装を紙に置き換えた例があります。透明で見えないという課題に対して、商品写真を印刷するなど別のアピール方法を模索する企業が増えています。年間何十トンものプラスチック削減が見込まれているケースもあります。

飲料

牛乳パックやジュース向け紙容器は従来から定番ですが、最近は口栓付き紙パックや炭酸飲料向け紙ボトルなど、新しい形態が研究・実用化されつつあります。フタをプラスチックから紙に変える事例も拡大しており、一気に紙化を推進する動きが見られます。

紙化のコストと設計上の注意点

紙に切り替えることで「環境負荷の低減」と「企業イメージアップ」を図れますが、実際には以下のような慎重な検討が必要です。

コストアップ

原材料費や加工工程の増加により、従来のプラスチック包装よりも価格が上がる可能性があります。企業としては、そのコストを内部の効率化で吸収するか、商品価格に転嫁するかを検討する必要があるでしょう。

強度・耐久性

衝撃や重量物に対して紙は弱いので、段ボールや厚紙による補強、用途による使い分けなどが必要になります。すべてを紙で代替できるわけではないため、製品設計段階で最適な形状や構成を考えることが大切です。

リサイクル性・分別

紙とフィルムの貼り合わせが複雑だと、かえってリサイクルが困難になる場合もあります。単一素材に近い形状や、分離しやすい接着方法など、廃棄段階の分別がスムーズになる設計が求められます。

使い勝手

開封性や密閉性など、消費者の使いやすさを確保する配慮が重要です。スティックタイプの紙パウチであれば、破線を入れて手で簡単に開けられるようにしたり、チャック付きにして保存性を高めたりといった工夫が必要になります。

紙ストローに代表されるように、初期は浸透しにくかった製品も改良を重ねながら普及してきています。新しい紙化事例が出るほど消費者の認知が高まり、企業の選択肢が増えるという好循環が生まれているといえます。

紙パッケージ導入の課題と未来展望を考える

紙パッケージを導入するうえでの具体的な課題と、今後の展望をまとめます。

課題1:デザインやブランディング

紙は自由度が高い素材ですが、透明性がなく、中身を直接見せたい商品には課題があります。フィルム包装のように中身の見た目で購買意欲を引き出す手法が使えない場合、代わりに紙の表面に商品画像を印刷する、あるいは窓を開けてそこに最小限のバイオマスフィルムを貼るなど、工夫が求められます。

一方、紙袋・紙箱などはブランドロゴや装飾を大きく印刷でき、自然由来の風合いともマッチしやすいメリットがあります。店頭でも目を引きやすく、「エコでやさしいイメージ」を演出するうえで効果的です。

課題2:コストと供給体制

紙は原紙や加工技術の進歩により、多機能化が進んでいますが、プラスチックよりも高額になりやすい傾向は否めません。原材料価格の上昇や燃料高騰の影響を受け、紙の価格も上がりやすいため、導入企業にとっては負担が増す場合があります。

また、需要が急増すると原紙の生産やリサイクルのキャパシティを超えるリスクも考えられます。需要と供給のバランスが崩れないよう、サプライチェーンの整備や工場の増強、古紙回収の効率化など、業界全体で取り組む必要があるでしょう。

課題3:リサイクルインフラと法整備

紙であっても、油や食品カスが大量に付着した状態だとリサイクルが難しくなります。現場での分別や洗浄が追いつかないケースもあり、消費者がどのように廃棄するべきか迷う可能性が高いです。

また、自治体によってはラミネートした紙を「燃えるゴミ」にしているところもあり、「紙マーク」が付いていても実質的にリサイクルしにくい状況が続く恐れもあります。今後は自治体や業界団体が連携し、紙パッケージを含む容器包装のリサイクル指針をより分かりやすく整備していくことが望まれます。

今後の市場拡大と未来展望

こうした課題はあるものの、紙パッケージ市場は今後も拡大傾向が続くとみられています。段ボール箱や紙袋、紙器などは既に大きな市場規模をもっていますが、テイクアウトや宅配需要の増加、紙ストローやリフィル製品の伸びなども相まって成長を後押ししています。

技術面では、従来のアルミ蒸着に代わる高バリア紙や、耐水耐油加工紙の性能向上が進んでおり、食品包装でもより幅広い商品で紙化が可能になると期待されています。スタンドパウチやバリアパックなどの機能性も進化中で、将来的にはさまざまな分野でさらに紙パッケージが普及するでしょう。

紙化は不可逆的な流れか

プラスチックの完全排除は難しいにしても、使い捨てプラスチックを削減する流れは世界中で加速しています。バイオマスプラスチックや生分解性素材との併用もあるかもしれませんが、回収再利用のインフラが整っている紙を選ぶ企業は今後ますます増えると予測されます。

企業にとっては、紙化によってブランド価値の向上やサステナブルな取り組みの明確化が期待できます。同時に、コストや技術的課題、リサイクル面での工夫が求められますが、市場のニーズや他社事例を参考にしながら導入を進めることで、より大きなメリットを得られるでしょう。

最終的にはサプライヤー、企業、自治体、そして消費者が一丸となって回収と再生産の仕組みを構築することが欠かせません。その先には、より循環型で地球に優しい社会の実現が見えてくるはずです。

まとめ

紙パッケージ化は、プラスチックに代わる環境配慮型の選択肢として注目されています。湿気・衝撃に弱いなどの課題や、リサイクル設計の難しさ、コスト増といった問題もありますが、技術革新や他社事例の成果により導入のハードルは下がりつつあります。企業が上手に紙パッケージを活用すれば、環境負荷を軽減しつつブランドイメージも向上させることができます。特に、SDGsやカーボンニュートラルに積極的な社会情勢を踏まえると、「紙化」は必然の流れになりつつあるといえます。

今後ますます多くの分野で紙製バリアパックやバイオマス素材との組み合わせが進み、実用性と環境性能を両立させたパッケージが続々と登場するでしょう。ただし、導入にあたっては製品仕様や生産コスト、リサイクルのしやすさ、使い勝手など、総合的な視点で検討する必要があります。最適なバランスを追求することが、紙パッケージ導入成功の鍵です。

また、パッケージデザインは単に素材を紙に切り替えるだけでなく、商品価値を最大限に引き出す重要な要素です。消費者に選ばれるデザインや機能性を両立させるためには、専門的な知識や最新技術を活用することが不可欠です。自社だけでの設計に限界を感じる場合は、紙パッケージに精通したパッケージデザイン会社に相談するのも有効な選択肢となるでしょう。適切なデザインと素材選定を行うことで、環境への配慮とブランド価値向上の両方を実現することができます。

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