本記事では、パッケージデザインにおけるデザインリサーチの定義から重要性、マーケティングリサーチとの違い、具体的な調査プロセスと手法までを詳しく解説します。
パッケージデザインにおけるデザインリサーチとは、商品を手に取るユーザーの行動や心理、流通現場の状況などを深く理解し、最適なパッケージ体験を生み出すための調査プロセスです。
単に好みの色や形を問うだけでなく、店舗棚での視認性、開封時の触覚、廃棄やリサイクルの流れといった利用シーン全体を捉えます。インタビューや観察、購入後アンケートなどで得た情報を多角的に分析し、新たなデザイン仮説を組み立てながら試作と検証を繰り返すことで、ユーザーの本質的なニーズと企業のブランド価値を両立させるパッケージを設計していきます。
製品間の機能差が小さくなる中、パッケージは商品そのものの第一印象を左右する重要な要素となっています。購入動機を喚起し、買い物行動を促すだけでなく、取り扱い時の利便性や環境配慮までがブランドの評価に直結します。
デザインリサーチを通じてユーザーの購買行動や店頭での視線移動、家での開封体験を理解することで、単なる美しさや目立ちやすさにとどまらない、体験価値の高いパッケージを開発できます。
さらに、早期段階でのプロトタイプ検証により、サプライチェーンの現場で発生しがちなトラブルを事前に把握し、企画コストと時間を大幅に削減できる点も大きなメリットです。
マーケティングリサーチでは、消費者の属性や購買履歴といった既存の統計データをもとに仮説を検証し、売上予測や広告効果を測定します。一方、パッケージデザインのデザインリサーチでは、棚前での視認性、手に取る際の触感、開封時のストレスなど、具体的な利用状況に潜む潜在ニーズや感情を探索的に発見することを重視します。
例えば、同じ飲料パッケージでも、冷蔵庫に収納するときのサイズや、飲み口の形状へのこだわりは消費者自ら言語化しづらい要素です。デザインリサーチではそうした暗黙的な期待を掘り起こし、「なぜ人はこの形状を好むのか」を深く問いながら新しいパッケージコンセプトを生み出していきます。
マーケティングリサーチが大規模なアンケートやパネル調査を通じて定量データを得るのに対し、パッケージデザインのデザインリサーチでは少人数のテストユーザーに対する深掘りインタビューや店頭観察、ホームユーステストを組み合わせます。店頭ではモックアップを棚に並べて視線トラッキングを行い、購入意思決定の瞬間を捉えます。家庭では開封後のゴミ分別のしやすさや保管時の取り回しを観察し、日常動作との整合性を検証します。こうした少人数かつ多手法のアプローチにより、細部に潜む改善点や新たな付加価値を見つけ出します。
パッケージリサーチの最初は、調査の目的を明確化し、解決すべき課題を定義するプランニングフェーズです。
関係者と共にブランドのメッセージ、流通チャネル、環境配慮の要件などを整理し、「店頭で目を引きつつ、家庭ですぐに捨てやすい形状とは何か」といった具体的なリサーチクエスチョンを設定。スケジュールや必要サンプル数、モックアップ制作の段取り、倫理的配慮もこの段階で計画し、利害関係者の合意を得ておくことで、その後の調査実施がスムーズに進みます。
準備が整ったら、各種手法でデータ収集を開始します。
定性調査では、店頭で視線トラッキングとインタビューを組み合わせ、ユーザーが棚のどの高さ・どの位置で製品に気づき、手に取るまでの心理プロセスを記録します。ホームユーステストでは、商品を開封・保存・廃棄する一連の動作を観察し、使い勝手の障壁やストレスポイントを抽出します。
定量調査では、オンラインアンケートでパッケージの好意度や購入意向を数値化し、属性別の傾向を分析します。加えて、デスクリサーチで競合パッケージの素材・構造を整理し、市場トレンドや技術的制約を把握。そこから自社デザインの差別化ポイントを検討します。
収集した定量データと定性データを統合し、テーマ別にコード化して分析します。店頭視線データとアンケート結果を組み合わせ、各デザイン要素が購入意向に与える影響を定量的に示します。
また、ホームユーステストの観察メモや動画からは、開封時の心地よさや捨てやすさなど数値化しにくいインサイトを抽出します。そして、これらのインサイトをビジュアルストーリーボードやカスタマージャーニーマップで可視化し、チーム全体で共有します。最終的に、次の試作に反映すべき具体的な改善ポイントを整理し、優先順位をつけて提案します。
抽出したインサイトをもとに、紙模型や3Dプリントで複数のモックアップを制作し、店頭テストとホームユーステストで再検証します。
店頭テストでは、棚への陳列状態で視認性を検証し、陳列高さや照明条件による見え方を確認します。家庭では、手で触れる動作や水濡れ状況を再現し、開封感や耐久性を評価します。テスト結果を踏まえ、形状・素材・グラフィック要素をブラッシュアップ。複数回の短い反復を重ねることで、最終的なパッケージデザインに磨きをかけます。
パッケージデザインのユーザーインタビューでは、製品を選ぶ際の基準や開封時に期待する体験、廃棄・リサイクルの意識までを丁寧に聞き取ります。
特に開封時の「ワクワク感」や「スムーズさ」に焦点を当て、その背景にある行動習慣や心理を深掘りします。インタビュー後は録音を文字起こしし、パッケージの見た目だけでなく、手触りや音の印象について言及された箇所をコード化して整理。言語化されにくい感覚的な要素をデザイン要件として具体化できます。
観察調査は店舗と家庭で実施します。店舗では、棚前での立ち位置や視線の動きを記録し、どの高さ・角度からパッケージが最も目立つかを測定します。家庭では、商品開封から保管・廃棄までの行動を記録し、サイズ感・開けやすさ・分別のしやすさを検証します。
また、観察メモに加え映像や写真で記録し、チームが後工程で体験を詳細に共有できるようにします。
アンケート調査では、複数のパッケージ案を提示し、好意度・購入意向・品質印象をリッカート尺度で評価してもらいます。設問には専門用語を避け、素材や形状の特徴を具体的に示し、回答者の誤解を防ぎます。属性別にクロス集計を行い、年代や居住地域ごとの嗜好差を可視化することで、ターゲット設定や流通地域戦略に活用できます。
デスクリサーチでは、業界レポートや特許データベースを活用し、環境配慮型素材や新素材トレンドを調査します。加えて、競合製品の構造やグラフィック表現を比較し、自社の差別化ポイントを抽出。得られた知見は企画段階の素材選定やコスト見積もりに役立ち、デザインの決定を後押しします。
プロトタイプテストでは、紙模型や3Dプリント試作モデルをユーザーに手に取って評価してもらい、質感・強度・操作感を検証します。開封時間や手間、封の密閉感などを観察し、ユーザーの言葉でフィードバックを収集。結果を基に構造を微調整し、素材を見直しながら、製造ラインの生産性を考慮した最適なパッケージを設計します。