ブランディング戦略におけるパッケージデザインとは? パッケージデザイン総合解説

シニア向けの心を掴むパッケージデザインとは?

なぜ今「シニア向けパッケージデザイン」が重要なのか

拡大するシニア市場と多様化するニーズ

少子高齢化が急速に進む日本において、シニア市場の拡大は止まることを知りません。総人口に占める高齢者の割合は年々増加しており、企業にとって無視できない巨大なマーケットとなっています。かつては若者向けの商品開発が主流でしたが、現在ではシニア層をターゲットにした戦略がビジネスの成否を分けるといっても過言ではありません。

しかし、一言で「シニア」といってもその実態は非常に多様です。年齢だけで一括りにしてしまうのは、マーケティングにおいて大きなリスクとなるでしょう。

例えば、定年後も趣味や旅行、スポーツを積極的に楽しむ「アクティブシニア」と呼ばれる層。彼らは健康意識が高く、新しいものへの関心も強いため、消費意欲が旺盛です。

一方で、身体機能の低下により、日常生活でのサポートやケアを必要とする層も存在します。この層には、使いやすさや安心感を最優先した商品が求められるでしょう。

同じ高齢者であってもライフスタイルや価値観は全く異なります。ターゲットとなる層がどのような生活を送り、何を求めているのか。解像度を上げて具体的にイメージすることが、パッケージデザインの第一歩だといえるでしょう。

シニア層が抱える身体的・心理的変化

シニア層に向けたパッケージデザインを考えるうえで、避けて通れないのが「加齢による変化」への理解です。若い世代のデザイナーや開発担当者が、自分たちの感覚だけでデザインを決めてしまうと、シニアにとっては「使いにくい」「見にくい」商品になってしまう恐れがあります。

身体的な変化(視覚・機能)

年齢を重ねると、多くの人が身体的な機能低下に直面します。特にパッケージデザインにおいて影響が大きいのが「視覚」の変化です。

老眼が進むと、小さな文字を読むのが困難になります。商品裏面の成分表示や説明書きが小さすぎると、それだけで読む気をなくしてしまうかもしれません。また、水晶体が黄色く濁る「黄変」により、色のコントラストがはっきりしていないと、重要な情報が伝わらないこともあります。

指先の感覚や筋力の低下も考慮すべきポイントです。握力が弱くなると、ペットボトルの蓋が開けにくかったり、袋を破るのに苦労したりします。指先の細かい動きが難しくなると、小さなつまみをつまむことさえストレスになるでしょう。

「開けにくい」という体験は、その商品へのネガティブな印象に直結し、リピート購入を阻害する大きな要因となります。

心理的な変化(プライド・安心感)

身体的な使いやすさは不可欠ですが、「高齢者向け」であることをパッケージで過度に強調するのは避けたほうがよいでしょう。

これには、年齢を問わず誰もが持っている「いつまでも若々しくありたい」「現役でいたい」という自然な心理が関係しています。自分に向けられた商品だと頭では分かっていても、あからさまに「シニア用」「高齢者用」と銘打たれていると、手に取るのをためらってしまう気持ちは誰にでもあるものです。

そこで効果的なのが「エイジレスデザイン」というアプローチです。一見すると年齢を感じさせないスタイリッシュなデザインでありながら、実は文字が読みやすく、開封も簡単になっている。そんな「さりげない優しさ」が求められています。

使う人の気持ちに寄り添いながら、機能的な安心感も提供する。このバランス感覚こそが、多くの人の心を掴む鍵となるのです。

シニアに「選ばれる」パッケージデザイン3つの鉄則

1. 「視認性」情報の伝わりやすさを極める

シニア層に選ばれるパッケージを作るための最初の鉄則は、徹底した「視認性」の追求です。どんなに素晴らしい商品でも、その魅力や使い方が伝わらなければ購入には至りません。

単に文字を大きくすれば良いという単純な話ではなく、読みやすさを科学的な視点で捉え、デザインに落とし込む必要があります。

UDフォント(ユニバーサルデザインフォント)の活用

文字の読みやすさを左右する重要な要素がフォント(書体)選びです。近年、パッケージデザインの現場で標準になりつつあるのが「UDフォント(ユニバーサルデザインフォント)」。これは年齢や性別、障がいの有無にかかわらず、誰もが読みやすく誤読しにくいように設計されたフォントのことを指します。

UDフォントには明確な特徴があります。例えば、文字の線と線の間の隙間が広く取られているため、文字が潰れて見えにくいという問題を解消できます。

また、「濁点(゛)」や「半濁点(゜)」が文字本体から離れて強調されているため、シニアの方でも判別しやすくなっています。誤読を防ぐことは、アレルギー事故などのリスク回避にもつながります。

配色のコントラストとカラーユニバーサルデザイン

視認性を高めるためには、色の組み合わせ、つまり「配色」への配慮も欠かせません。

加齢による色の見え方の変化により、淡いパステルカラー同士の組み合わせなどは、境界線が曖昧になりがちです。重要なのは、背景色と文字色の「コントラスト(明度差)」をはっきりとつけることです。

加えて、「カラーユニバーサルデザイン(CUD)」の視点も取り入れましょう。これは色覚の多様性に配慮したデザインのことで、特定の色の組み合わせが判別しにくい人にも情報が伝わるように工夫する考え方です。

色だけで情報を区別するのではなく、形や模様を併用したり、色の境界に輪郭線を入れたりすることで、誰にでも分かりやすいデザインを実現できます。

情報の優先順位と整理

伝えたいことが多いあまり、パッケージに情報を詰め込みすぎていませんか。小さな文字がびっしりと書かれたパッケージは、シニアにとって解読困難な暗号のようなものです。情報を整理し、優先順位をつける「引き算のデザイン」が求められます。

まず、「商品名」「メリット」「使い方」といった核心部分を、一目で分かる位置に適切な大きさで配置します。一方で、詳細な成分表示などは優先順位を下げましょう。

また、レイアウトにおいては「余白」を十分に取ることが大切です。適度な余白は視線を誘導し、情報のグループ分けを明確にする効果があります。

2. 「ユーザビリティ」使いやすさと安心感の提供

パッケージデザインの役割は、店頭で商品を手に取らせるだけではありません。購入後、自宅で商品を開封し、使用し、最終的に廃棄するまでの「一連の体験」をデザインすることが求められます。

特にシニア層にとって、物理的な使いやすさ(ユーザビリティ)は、その商品をリピートするかどうかを決める決定的な要因となるでしょう。

開封性の向上(易開封性)

「袋が開かない」「蓋が固い」といった日常の小さなストレスは、シニアにとって想像以上に大きな負担です。握力や指先の力が弱くなっているため、軽い力で簡単に開けられる「易開封性(いかいふうせい)」の工夫を取り入れましょう。

例えば、お菓子の袋やレトルトパウチでは、どこからでも手で切れる加工を施したり、切り口(ノッチ)の位置を分かりやすく表示したりすることが有効です。また、瓶の蓋に滑り止めの凹凸をつけるのもよいでしょう。

「ここから切れます」という表示があっても、その文字自体が見えにくければ意味がありません。開け口の色を変えて目立たせるなど、視覚的な誘導もセットで考える必要があります。

直感的にわかるピクトグラムの活用

細かな説明文を読むのが億劫なシニアにとって、直感的に意味が伝わる「ピクトグラム(絵文字・アイコン)」は強力な助っ人です。文字情報を補助し、一瞬で内容を理解させる効果があります。

例えば調理方法を説明する場合、「電子レンジで500Wで3分加熱してください」と文章で書くよりも、電子レンジのイラストと数字を大きく組み合わせた方が、はるかに分かりやすくなります。

ピクトグラムを活用する際は、奇をてらったデザインではなく、誰もが共通して認識できる標準的な形を選ぶことが大切です。言葉の壁を超えて伝わるユニバーサルなデザインは、シニアだけでなく、多くの人にとって親切な設計と言えるでしょう。

3. 「情緒的価値」シニアの心を動かすデザイン

機能性や分かりやすさは重要ですが、それだけで商品が売れるわけではありません。人は理屈だけでなく、感情で物を買います。「素敵だな」「美味しそうだな」という心がときめく感覚。シニア層の購買意欲を刺激するためには、この「情緒的価値」をデザインに込めることが不可欠です。

「シニア用」を感じさせない上質感

前述したように、あからさまな「シニア向け」のデザインは敬遠されます。目指すべきは、「大人のための上質な商品」というポジショニングです。安っぽさを排除し、高級感や品格を感じさせるデザインを意識しましょう。

落ち着いた色合いの伝統色を使用したり、和紙のような質感のある素材を取り入れたりするのも一つの方法です。また、余白を活かしたシンプルでモダンなレイアウトは、洗練された印象を与えます。

シニア向けという考えに捕らわれ過ぎず、「これを買っている自分は素敵だ」と思えるような、所有欲を満たすデザインこそが心を掴むのです。

カタカナ語・専門用語の乱用を避ける

デザインがおしゃれでも、そこに書かれている言葉が理解できなければ、シニアは疎外感を感じてしまいます。特に注意したいのが、カタカナ語(横文字)や専門用語の乱用です。「アンチエイジング」「ベネフィット」といった言葉は、多くのシニアにとって馴染みのないものでしょう。

「自分には関係のない商品だ」と判断されないよう、分かりやすい日本語表現(和語)への言い換えを検討しましょう。「アンチエイジング」なら「年齢に応じたケア」、「ベネフィット」なら「嬉しいポイント」など、誰が読んでもスッと頭に入る言葉選びが大切です。

専門用語を並べ立てるのではなく、平易な言葉で語りかけるようなコピーライティングが共感を呼びます。

まとめ

急速に拡大するシニア市場において、パッケージデザインは単なる「包装」以上の役割を担っています。加齢による身体的な変化を補う「使いやすさ」と、大人のプライドを満たす「上質なデザイン」の両立。この微妙なバランスこそが、シニア層に選ばれる商品の条件であることを解説してきました。

しかし、開発チームが若い世代中心の場合、どうしても「自分たちの常識」や「思い込み」がデザインに反映されてしまいがちです。また、デザインの微調整や薬機法などの専門知識、コストとのバランスなど、これらすべての要素を自社のリソースだけで完璧に網羅するのは難しいと感じる場面もあるかもしれません。

そんなときは無理をせず、プロのパッケージデザイン制作会社に相談するのも一つの賢明な選択です。専門家の知見を借りることでリスクを抑えつつ、ターゲットの心に響く最適な解を導き出せるはずです。ぜひシニアの生活に寄り添うデザインで、商品の可能性を広げてみてください。

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