「新商品を出すたびに、ロゴの位置やあしらいが少しずつ違ってしまう」「担当者が変わったら、なぜこの色・このフォントを使っているのか説明できる人がいなくなった」——複数の商品ラインやブランドを抱える企業のご担当者から、こうした声をよく耳にします。個々のパッケージは決して悪くないのに、並べてみるとシリーズとして見えない。その原因は、デザインの発想そのものではなく、「決めたルールを書き残し、共有する仕組み」が抜け落ちていることにあるケースが少なくありません。
ブランドの考え方(コンセプト)自体はしっかり固まっているのに、それを毎回の制作の場で"再現"するための拠り所がない。そのために、制作会社が変わるたび、担当者が代わるたびに、判断基準が少しずつブレていく。この記事では、パッケージデザインと「ブランドガイドライン(VI)」の関係を整理しながら、複数商品・複数タッチポイントにわたって一貫性を保つために何を文書化し、どう運用すればよいのかを実務目線で解説します。
なお、ブランドの世界観や価値観そのものの"考え方"を固める段階については、当サイトの別記事で扱っています。まずは「コンセプト」と「ガイドライン」が何を指しているのかの違いから見ていきましょう。
この2つの言葉は混同されがちですが、役割が異なります。
つまり、コンセプトが「why(なぜこの表現なのか)」だとすれば、ガイドラインは「how(どう表現として固定するか)」にあたります。コンセプトが一度固まっても、それを毎回の制作現場で言葉だけで伝えていては、担当者や制作会社が変わるたびに解釈がブレてしまいます。ガイドラインは、このブレを防ぐための「合意済みルールの記録」です。
ブランドコンセプトそのものの考え方・作り方については、関連記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。本記事では、固まったコンセプトを複数商品・複数担当者にわたって一貫させるための「ルールの文書化と運用」に絞って掘り下げます。
パッケージをデザインする前にブランドコンセプトの作り方を知るを見る
単品のパッケージを1回作るだけであれば、ガイドラインがなくても大きな問題は起きにくいものです。ガイドラインの必要性が高まるのは、次のような状況においてです。
ガイドラインは、こうした「ブレが生じやすい場面」であらかじめ判断基準を用意しておくための備えです。整備したからといって表現の自由度がなくなるわけではなく、むしろ「変えてよい部分」と「守るべき部分」を切り分けることで、シリーズごとの個性を出しながらも全体としての統一感を保ちやすくなります。
ガイドラインの厚み・ページ数は企業の商品数や展開規模によって幅があり、一律の目安があるわけではありません。重要なのは項目の抜け漏れがないことです。パッケージデザインの観点で最低限押さえておきたい項目を紹介します。
ロゴの正しい形(アイソレーション)、最小使用サイズ、周囲に確保すべき余白(クリアスペース)、背景色との組み合わせパターン、縦横比を保ったまま変形させないことなど、ロゴを"崩さず使う"ためのルールを定義します。
ブランドカラーは印刷方式によって見え方が変わりやすいため、CMYK・RGB・Web用のカラーコード(HEX)に加え、特色を使う場合はその指定まで用意しておくと、素材・印刷方式が変わっても色のブレを抑えやすくなります。ブランドカラーの選び方・考え方自体は関連記事で解説しています。
商品名・キャッチコピー・原材料表示など、要素ごとに使うフォントと優先順位(何を目立たせ、何を控えめにするか)を定義します。フォントが手に入らない環境での代替フォントまで指定しておくと、外注先が変わっても表記の見え方が揃いやすくなります。
「してよいこと」だけでなく「してはいけないこと」を具体例で示すことも重要です。ロゴの縦横比を変える、指定外の色を使う、余白を詰めすぎる、といった避けたい使い方を並べておくことで、初めて依頼する制作会社にも意図が伝わりやすくなります。
フレーバーやサイズ違いの商品を並べたときに「同じシリーズだ」と一目で分かるために、どの要素を固定し、どの要素(色味やイラストなど)を商品ごとに変えてよいのかを整理しておきます。棚に並んだときの見え方を基準に、共通させる要素と可変にする要素を切り分けておくと、シリーズとしてのまとまりを保ちやすくなります。
ガイドラインが整っていない状態で外部の制作会社に依頼すると、次のような認識のズレが起きやすくなります。
ガイドラインがあれば、これらのやり取りの多くを「事前に文書で合意済みの範囲」に置き換えられます。制作会社側も、守るべきルールと自由に提案してよい範囲が最初から分かるため、初稿の精度が上がり、確認や修正の往復を減らしやすくなります。結果として、依頼側の説明コストと、制作側の手戻りの両方を抑えることにつながります。
ガイドラインは一度作って終わりではなく、更新・運用してこそ意味を持ちます。整備・見直しに向いているタイミングとしては、次のような場面が挙げられます。
特にリブランディングのタイミングは、これまで属人的に運用されてきた判断基準を棚卸しし、ガイドラインとして明文化し直す好機になります。長年のブランドが抱えがちな「表現のブレ」を整理する取り組みについては、リブランディング特集でも事例やポイントを紹介しています。
運用体制としては、ガイドラインの更新権限を誰が持つのか、改訂した場合に版数や日付をどう管理するのか、社内外の関係者にどう共有するのかをあらかじめ決めておくことが望ましいでしょう。ガイドラインそのものが古いまま放置されると、かえって現状の運用との食い違いを生む原因にもなります。
パッケージデザイン会社を選ぶ際、多くの担当者はデザインの表現力や過去の実績に目を向けます。それに加えて、複数商品・複数タッチポイントを抱える企業であれば「既存のガイドラインを踏まえて制作できるか」「ガイドラインが整っていない場合に、整備のプロセスから一緒に伴走してくれるか」という視点も持っておくと、依頼後のミスマッチを減らしやすくなります。
具体的には、初回の打ち合わせで既存のブランド資料をどこまで丁寧にヒアリングしてくれるか、シリーズ展開時に守るべき要素と変えてよい要素をどう整理してくれるか、といった対応の仕方が一つの判断材料になります。パッケージデザイン会社ごとの特徴や実績は、以下で紹介していますので、自社の状況に合った依頼先を探す際の参考にしてください。
ブランドコンセプトが「なぜこの表現なのか」という考え方であるのに対し、ブランドガイドライン(VI)は、それを複数商品・複数担当者・複数の制作会社にわたって再現するための「ルールの文書化」です。ロゴ・カラー・タイポグラフィ・NG例・シリーズ展開のルールといった項目を整理しておくことで、商品が増えても、担当者や依頼先が変わっても、一貫性を保ちやすくなります。ガイドラインの整備は、リブランディングや新シリーズ立ち上げのタイミングで見直す好機でもあります。自社のブランドを長く育てていくための土台として、ガイドラインの整備と運用体制を一度点検してみてはいかがでしょうか。